年金だけでは固定資産税は賄えない
でも実家があります。姉と、老後までここに住み続けられるのでは? 「実家は実は二世帯住宅なんです。だから難しいんです」。30年ほど前に、実家の敷地に、長兄が連棟式の二世帯住宅を建てました。実家と兄一家と、中は完全に分離した別世帯ですが、いつでも行き来ができるよう、一階の内扉でつながっています。
おそらく土地は、母の相続した実家部分と、長兄の相続した兄家族部分とで分筆してあるのでしょう。でも、二つの家は建物も庭もつながっているので、気軽に実家側だけを処分することはできません。もし将来、姉と一緒に実家を相続できたとしても、こちら側だけ小さく建て替えるダウンサイジングは出来ないでしょう。ここを売って老人ホームの入居金に充てる訳にもいかないでしょう。
さらに、資産があっても、維持するのは大変なのだと、真紀子さんは説明します。「固定資産税が大変なんです」。固定資産税は、土地や建物の評価額に比例します。地価の高い場所や広大な土地に、延べ床面積の広い建物を持っていると、年間で払う税金も高くなります。
「藤堂家が所有する土地や建物は何ヵ所もあって、その固定資産税はいま母が払っています。母いわく、借家とか自宅を合わせると、税金だけで年に150万くらいかかるそうです。年齢を重ねて思うのは、単に家があるからいい、では済まないってこと。不動産は所有していると、固定資産税がかかる。だから、もし実家をもらったとしても、そんな多額の固定資産税なんて、私の年金からじゃ払えません」
母のように、年金のほかに借家の賃料など収入があれば、自宅の固定資産税も払えるでしょう。でも実家だけもらっても、収入が年金しかないなら税金が賄えません。税金が払えないから維持できず、結局売る羽目に陥るかもしれません。資産(ストック)があっても収入(フロー)がなければ維持できない、とは。資産価値があるゆえの苦労に目ウロコです。
真紀子さんの公的年金は、おそらく月8万円くらいだと言います。勤め人向けの厚生年金には、15年くらいしか加入しておらず、残りの期間はフリーランサーなので自営業者、つまり国民年金です。その分、生保会社の個人年金は入っています。65歳から10年間受け取れる確定年金です。
ただ、iDeCoも株も投資信託もやっていません。手堅く債券だけは持っていて、これからNISAを始めようと思っているところ。でも、堅実な真紀子さんは、「老後にこの程度は必要」とされるくらいの現金は、すでに貯蓄したそうです。