妻も、僕と一緒に戦っていたんでしょうね。妻にしてみれば「こんなに努力して支えているのに、今日も負けてしまった……」とやるせない思いになる時もあったんじゃないかな。そう思うと、実際に戦う僕よりも大変だったのではないか、と想像します。
引退後の今、奥さん孝行をしたいと思うけど、親方になったらなったで新米親方として忙しすぎて、先日は楽しみにしていた子どもの行事にも参加できなかった……。(涙)
土俵を下りて、今はまったく悔いはないです。25歳で手術をしないと決めたあの日から、ケガと共に生きるためには何をすればよいかを考え続けた力士人生でした。小兵のままではいられないと体作りに励み、ケガの負担を少しでも軽くするため稽古も工夫し、治療を繰り返すことで体の仕組みにも詳しくなった。ケガがなければ、この年齢まで相撲を取っていなかっただろうと思います。
何か悔いがあるとすれば、「もうちょっと勉強しときゃよかった」ということかな。狭い世界で生きてきたから、一社会人として考えると一般常識が足りない(笑)。先日も銀行に行ったら、「ほう、こういう仕組みなんですね。ハンコがいるんですか……また来ます!」というような状況で。
現役中はそれでよかったかもしれないし、角界においては関取という存在は偉いのかもしれない。最年長のベテラン力士として、わざと「怖い存在でいよう」と意識して振る舞っていた部分もありましたが、ひとたび外に出たら特別意識は持たない、勘違いしてはいけない、とこれまでも自分に言い聞かせてきました。
今後の目標は、若い力士たちに僕の経験をどう教えていくか。技術だけでなく、幾度もケガを乗り越えた力士にしかわからない“心”の部分も伝えられると思うから。僕の根幹には、相撲しかない。一生「相撲人」であり続けたいと思っています。