持つべきものは友人だ

すでに早紀さん、親しい女友だちの自宅の鍵を、何本も預かっているそうです。年上から同世代まで年代も幅広く。具合が悪くて伏せっていると聞けば、早紀さんが料理を作って差し入れます。病院の診察に付き添い、本人が医師に言いにくいことを、早紀さんがずばっと質問したことも。独り暮らしで具合が悪く心細い時、助けを求めようにも動けず、どうにもならない時、早紀さんが気軽に訪ねてくれて助かった、と感謝する女友だちもいます。

「病気の友だちも多いので、彼女たちが万一の時には、助けに行く約束です。任せなさい、って。それが私の使命だと思っているので。できることがあるなら、やりたい。全部はできなくても、できることを」。早紀さんは明るく微笑みます。

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ちょっと、自分のことを後回しにしすぎでは?「そうですね」と早紀さんは苦笑します。自覚はあるようです。老後とか、今後、自分のためにしたいこと、し残したこと、ってありませんか?

「本当は、もう一度くらい海外留学に行きたかったですね」もっとアロマテラピーを勉強したいと言います。あくまでも勉強熱心な早紀さんです。それと、かつて世話になった海外の国や人々に、恩返しもしたいそうです。「でも、いまは実家の処分もあるし、親族のことも心配なので、もう行かれないかなあ……」

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早紀さんの話には考えさせられます。お金がなくても友人知人、頼れるコミュニティーがあれば、シングル女性だって老後、困った時にもなんとかなるはずです。逆に、たとえお金があったとしても、コミュニティーがなければ解決できないこともあるでしょう。

精神的に孤立を感じている時に顔を見せてくれるとか、体の具合が悪い時に様子を見に来てくれるとか、そういう「ちょっとした不安」には、公的な介護サービスは対応できません。シングルだけでなく、たとえ同居家族がいたって、家族には頼みにくい時や人もあるかもしれません。持つべきものは友人だ(特に年下の女友だちだ)、とは、よく聞きます。

老後の家を考える時、単に物件の善し悪しやお金が払えるかどうかだけでなく、住むエリアに支え合える人間関係やコミュニティーがあるかどうかも大事だ――以前の取材で、不動産の専門家から、こう指摘されたことを思い出しました(詳細は、拙著『老後の家がありません~シングル女子は定年後どこに住む?』P44をご参照ください)。いやはや、早紀さんが「ひずんでる」と言ったように、ついつい「まず自分のこと」を考えてしまう己に反省しきり、なモトザワでした。

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