「私のことはもう、みなさんお忘れでしょう。すっかりボケてると思われてるんじゃないですか」。軽口を叩く声は明るく、目には光が満ちている。
昨秋、100歳の誕生日を迎えた。冬の間は体調がすぐれない日も多かったが、春先からこのかた、「ずっと調子がいいんです」。
本誌連載エッセイをまとめた『思い出の屑籠』は、「私にとって、最後の本」と語る。「書きたいものは出し尽くしちゃって、スッカラカン。原稿用紙は埃をかぶっています」。
仕事は、再刊される書籍の校正がたまに入るくらい。「世間の人の乗る電車が目の前を通り過ぎていく。それを眺めているような心境です」。
読者から寄せられたハガキにはつぶさに目を通している。「私も100歳を目指して頑張ります」という文面に、「別に目指すってほどのことではないんですよ。ただ生きている。それだけのこと」とやわらかく微笑む。