70人いた女学校の同級生は、「昨年、親しかった友だちが亡くなって。ついに最後の一人になりました」。お寂しいでしょう、と問えば、「いやぁ、寂しいなんてことも、もうなくなりました」。
長年通う整体治療に、週に一度は出かける。「1週間の疲れが消えて、楽になります」。お元気そうと伝えると、「それでも耳が聞こえにくくなりましてね。聞こえないと気が滅入るし、考えることも億劫になってくる」。聞こえの衰えは頭の衰えにつながると言う。
88歳で最後の長篇小説『晩鐘』を書き終え、作家生活に幕を下ろした佐藤さんが、90歳でふたたび筆を執ったのが、このたび映画化された『九十歳。何がめでたい』だ。ミリオンセラーとなり取材が殺到、疲労困憊した佐藤さんはまたも引退を決意する。
しかし、いつしか自然と書き始めていた。たびたび断筆宣言を覆してきた佐藤さん、また原稿用紙に向かう日も来ると期待したいが――。
「もう100歳ですからね。若い頃は別れた亭主の借金を返すために書いていたこともあるけれど、今はお金も要らないし。欲もいっさいなくなりました」。さっぱりした表情を見せた。
昨年100歳を迎えた佐藤愛子さんのエッセイを原作とした映画『九十歳。何がめでたい』は6月21日より全国公開