母の過酷な生活を思いながらも

私の祖母は明治、母は大正の生まれ。家父長制の根強い時代に、女として生きてきた人たちです。戦後生まれの私は、祖母や母たちの価値観を刷り込まれて育った最後の世代かもしれません。

母は働き者でした。父は病弱で生活力に乏しく、母がお惣菜を売ったりラーメン店などを営んで生計を支えていました。多忙を極めながら、同居の姑から嫁いびりもされて。なのに嫌な顔ひとつせず、常に夫を立てて、子どもたちにはいつも笑顔。

母につらく当たっていた祖母は、若いころから祖父の女性関係に泣かされた人でした。祖母も母も、嫁としての過酷な境遇を受け入れて暮らしてきた。それが当然の時代でした。

そんな現実を目の当たりにした私は、反発を覚えながらも不思議と母の生き方を否定する感情はなく、「母は強くてすごい」と感じていたのです。

大学で演劇科に入ったり、学生運動に参加したりと、アウトサイダーな学生時代を過ごしましたが、一方で「卒業したら結婚して、妻になり、母になる」と思っていました。やはり母が私のロールモデルだったのでしょう。