「闘病や介護のときこそ近くにいたいと願い、結婚を決めたのです」(撮影:宮崎貢司)
人生のたそがれどきに出会いを得ても、子どもとの関係や迫りくる介護を考え結婚を選ばないカップルも多いもの。松井久子さんは76歳のときに、13歳上の思想史家の子安宣邦さんと再婚しました。その決断の理由と、現在の思いを明かします(構成:菊池亜希子 撮影:宮崎貢司)

家族でなければお見舞いにいけない!?

結婚してもうすぐ2年になります。毎朝、一緒のベッドで目覚め、しばらくおしゃべり。長いときは1時間ほど話すことも。

それから、先生――市民講座の講師として出会ったので、いまもこう呼んでいるんですよ――が作った朝食を一緒にいただきます。朝食作りは数十年続く先生のルーティン。

週に3回ほどジムに行くのも決まっていて、筋トレとサウナが健康の秘訣のようです。おかげで90歳を過ぎても風邪知らず。いまはできる限り私も一緒に通っています。

婚姻届は出さずに生きていく選択肢もありました。私たち自身、結婚にこだわっていたわけではありません。ただ、お互いの年齢を考えたとき、今後起こりうる病気などの際、手術の同意書にサインができるのは家族だけ、ということは大きかった。

しかも当時はコロナ禍で、先生の娘さんに「結婚していないと、入院したらお見舞いにも行けないわよ」と背中を押されて。闘病や介護のときこそ近くにいたいと願い、結婚を決めたのです。

とはいえ、私は33歳で前夫と離婚して40年以上、一人で息子を育て、仕事をしながら生きてきました。8年間の結婚生活で「もうこりごり」。まさか70を過ぎて再婚するなんて思ってもいませんでした。