昭和の時代の野球に育てられた父
瑛介が小学校の時は兄の真似して喜んでクリクリ坊主に刈り込んでいたのに、中学に上がった途端少しずつ散髪の間隔が長くなっていった。いつの間にか風にサラサラと髪をなびかせてアハハアハハと笑いながら走る子になってしまった。
女の子の目が気になりだす時期と重なって、わたしはごく自然なことだと思っていた。
だがいよいよ両目が隠れるほど前髪が長くなってしまい、自分でも鬱陶しそうに頭で細かく前髪を振り払いながら野球をしている。
んん、確かに母が見ても鬱陶しい。そんなに気になるならその前髪、キュッとゴムで縛っちゃいなさい。いやそうじゃないだろ。
どんな華麗なファインプレーやナイスバッティングだろうと、そんな息子の汗がシトッと前髪伝いに滴り落ちる姿を、
「あ゛ぁぁあああ鬱陶しい!!」
と憎々しく見ていたのは、昭和の時代の野球に育てられた父・大介である。
「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」を見て育ち、練習でウサギ跳びや罰走は当たり前、暑い夏も極限まで水を飲ませてもらえなかった時代の申し子。野球といえば坊主だろう、な夫の中学時代の写真を見ると、どれも「一休さん」か「三蔵法師」のような色白クリクリ坊主である。