危うい状況の父と息子を置いての帰省
父親の怒りを買う言葉を、不遜な態度で毎日懲りもせず発してしまう息子。
このところヒリヒリするほど危うい状況の父と息子を置いて、わたしは数日福岡に帰省した。
案の定。
家を出た日の夜に電話がかかってきて、夫はイライラした様子で瑛介の野球の話を始めた。
見ていて不甲斐ない。練習中も集中力がない。だいたい、見渡せば瑛介ほど鬱陶しい長髪で野球やってる奴ぁ一人もいない!(そうでもないんだが)
やる気あんのか!?
嫌ならさっさと辞めちまえぃ!
(いや電話口でわたしにそう言われても)
どうどうどう…。
そもそも瑛介のチームにも「坊主頭」にしなければならない決まりはなく、長髪の選手は少なくない。ただ、みんなさすがに帽子に納まる程度の長さだ。
20人ほどおられるどのコーチからも強制されることはないのだが、なぜか夏場の引退をかけた最後の大会前、チームのみんなで頭を丸めて試合に意気込む3年生が毎年いるそうだ。
負ければ引退、の大事な大会前にチームでいよいよ気合を入れよう!という気持ちの表れのようだ。そんな先輩たちの応援に立つ後輩たちも、「いつか俺たちの番が来たら…」と内心ドキドキして見ているのかもしれない。
でも誰かに言われてやるのではなく、いつも選手たちがそれぞれ決心して自ずと坊主にしてくるのだそうだ。
父に長髪を責められた瑛介に電話を代わって、「明日とりあえず美容院に行って髪は短くサッパリしておいで」と伝えた。頭を振り上げて髪を払いながら野球するのは、やっぱりおかしい。絶対練習には邪魔だ。
電話の向こうでほとんど喋らずムスッとしている様子が伝わってきた。
どんよりとした重い空気が我が家に澱んでいるのを福岡の実家から感じ取って、わたしは久々に実家で食が進まなかった。
翌日。
雨で野球のグラウンドが使えないとの連絡が入ったが、我が家からは何の連絡もなかった。