「家族」への憧れ
「家族」というものに、強い憧れを抱いていた。子ども時代の自分が与えられなかったものを我が子に与えたい。その最たるものが、家庭内における安らぎであった。
家の中の空気がピリついていると、それだけで子どもは疲弊する。中には、両親の機嫌を素早く察知して道化に徹する子もいる。これは、アダルトチルドレンでいうところの「ピエロ(道化師・クラウン)」に該当する。家族の雰囲気を明るくするために、わざとふざけたり冗談を言ったりする。表に見える顔は、明るくひょうきんだ。だが、その裏側では過度に気を張り、家庭内の空気が尖ることにひどく怯えている。
両親が何らかの問題を抱えている場合、ケアテイカー(世話役)のように、献身的に家族の世話を焼くタイプが想像されがちだ。しかし、子どもの性格や環境要因により、強いられる役割は変わる。「ロストワン」と呼ばれる立ち位置を選ぶ子どももいる。ロストワン――「いない子ども」という意味だ。自分の存在を消し、家族の均衡を保つ。その反動は、ある日突然やってくる。時には主従関係が逆転し、我が子の家庭内暴力に親が悩まされる事態も起こり得る。親の不仲や虐待が子どもに及ぼす影響は計り知れない。
息子を被害者にも加害者にもしたくなかった。ただただ健やかに、子どもらしく育ってほしかった。好きなことをして、嫌なことには「NO」をいえる。そんな子どもでいてほしかった。そのためには、家庭の雰囲気が“安らげる”ものでなければならない。それなのに、私と元夫は喧嘩が絶えなかった。子どもの前で言い合いをするのは、できる限り避けた。だが、それも完全ではなく、時に口論を見せてしまったこともある。また、冷戦のような空気感は、言葉にせずとも伝わってしまう。長男の夜泣きが酷かったのは、彼の疳の虫だけが原因ではなく、私たち夫婦の関係性も大いに影響していたのだろう。
家族を再生させるために、できることはなにか。頭が擦り切れるほど考えたが、どうにもうまくいかない。夫を信じきることができない。かといって、彼との夫婦関係を諦めることもできない。中途半端だったのは私で、家族を振り回していたのも私だった。原因をつくった元夫が悪くないとは言わない。それでも、どうしても「許せない」のなら、私は別れを決断するべきだった。泣かれると許してしまう。謝られると「いいよ」と言ってしまう。それはひとえに、私の弱さだった。