作品に使う影絵は、背景になる絵と、動かすことのできるキャラクター、そしてときどき字幕というシンプルなもの。同じような動く影絵でも、藤城清治さんのように色とりどりのセロファンを使う作品も多いけれど、僕が作るのはモノクロの世界です。
何年か前、『スーホの白い馬』という作品のラストに血の赤い色を出したことがあるのですが、そこだけグロテスクな印象が強くなってしまって。色を使うときは気をつけなくてはと学びました。
カラー映画があたりまえの時代でもモノクロ映画には別の魅力があるように、白と黒、光と影だけで思いを伝えるスタイルが、僕には合っているようです。
また影絵では、キャラクターの細かい表情の変化を見せるのが難しい。でも言葉で「私は哀しいです、嬉しいです」と説明しては絶対にいけないと、アメリカの人形劇団で修業していたときに教わりました。
シルエットだけのキャラクターが見せる微妙な動き、場面の転換、音楽の使い方などで物語を進めていく。色は白と黒だけ、限られた動きだけという制限された要素で表現をし、あとは観賞する人の想像力で自由におぎなってもらう。このスタイルは、日本の俳句にも近いかもしれませんね。
作品の作り方ですが、まず僕の描いた絵コンテをもとに広田さんが原画を描いてくれます。背景の黒い部分は濃い色の色画用紙、淡いグレーに見えるところは舞台照明用のフィルム、そして原画をトレースした方眼紙をカッターで切って作っていきます。細かい作業なので、長い作品のときは準備に何ヵ月もかかってしまうことがあるんですよ。
キャラクターを操るための棒は、しなやかで丈夫な竹ヒゴがぴったり。富山県には「越中だいもん凧まつり」という大きな凧揚げ大会がありますから、長さも太さもさまざまな竹ヒゴがホームセンターに売っている。
口や足などの細かい動きは、針金でパーツをつないで作ります。動かしてみて、「ちょっと違うかな」と思ったら位置をあちこち変えていきます。そうした失敗の跡も、穴をふさいでしまえば影絵になったときにはお客さんに見えません。(笑)
僕は全国で影絵制作のワークショップも開いているのですが、初めての人でも失敗をおそれずにチャレンジできて、その場ですぐに映して楽しむことができる。自分でも作りたくなったら、材料もだいたい近所のお店でそろいますし、光は懐中電灯でOK。いつでも誰でも、楽しみたいと思ったらすぐに始められるパフォーマンスであることも、影絵の大きな魅力だと僕は思っています。