富山市を拠点に活動する「影絵師」、ジャック・リー・ランダルさん(撮影:本社写真部)
着物姿の『赤頭巾』や、英語交じりで演じられるアメリカ版『おむすびころりん』。昔話に独自の解釈を加え、影絵として上演しているのが、ジャック・リー・ランダルさんです。影絵と、ジャックさんが拠点とする富山県の魅力について訊きました。(構成=山田真理 撮影=本社写真部)

おばあさんの家まで「ヘイ! タクシー」

僕は富山市を拠点に活動する「影絵師」です。オリジナルの作品を持って全国をまわり、子どもから大人まで多くの人に影絵の世界を楽しんでもらっています。

取り上げるのは、生まれ故郷であるアメリカのお話をはじめ、ヨーロッパや日本の昔話など皆さんがよく知っている物語です。でもそのままではつまらないですから、僕なりにストーリーや場面にアレンジを加えて、ナレーションも含めて演じています。

たとえば『赤頭巾』ですが、僕は昔からあのストーリーがあまり好きではありませんでした。そもそも、オオカミがおばあさんに化けているのを、見破れないのはおかしいでしょう(笑)。

それにエンディングで突然猟師が出てきて、赤頭巾は助けられるだけというところも納得がいかない。特に2人の娘の父親になってからは、「女の子は弱いから、男の人に助けてもらわなきゃ」というメッセージを受けとってほしくないという気持ちが強くなりました。

最初は、幼稚園や小学校などでの子ども向けの上演会で、赤頭巾がカンフーでオオカミを「えいやっ」とやっつける場面を用意しました。すると子どもたちは大喜び。ほかにも、オオカミがおばあさんの家まで「ヘイ! タクシー」と言って駆けつけるといった場面を加えたりして、楽しんでもらったりもしました。

昨年には、作品の原画をお願いしている日本画家の広田郁世さんと僕とで影絵を動かし、琵琶と箏の奏者とコラボレーションする『今様 赤頭巾』という作品も発表しました。舞台をヨーロッパから日本に変えたので、赤頭巾は着物姿、オオカミと対決するのはおばあさんの家の囲炉裏端です。

賢い赤頭巾は、相手がオオカミだと気づいていないふりをして、「どうして耳が大きいの?」と質問をしながら、実は反撃のチャンスをうかがっている。そうしてオオカミに気づかれないよう探りあてた火箸で、襲ってきたオオカミと闘って……というスリリングな物語にしてみたのです。

 

愛器OHPが映すモノクロの世界

影絵というと、スクリーンの背後に人形や演じる人がいて、そこに光を当てて影を作るという方法がポピュラーです。僕の場合は、読者の皆さんにも懐かしいかもしれない、OHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター)という装置を使って、スクリーンの前で場面を変えながら演じるやり方をしています。

透明なシートに書いた文字やイラストをスクリーンに拡大して映すOHPは、かつては学校や職場でたくさん使われていましたが、パソコンで簡単に映像が映せるようになって急激にすたれてしまいました。

僕がスーツケースに入れて各地の会場に持っていくこの機械も、ネットオークションでやっと探し当てたもの。場面を切り替えるときに足元でオン・オフできるように、フットスイッチに改造した自慢の相棒です。でももし、これが壊れてしまったら次が見つかるかどうか、今からとても心配なんです。(笑)