夫婦の関係も変化して

もうひとつ、変わったことと言えば家族環境ですね。デビュー当時は幼かった子どもたちも成人しました。今は夫との2人暮らしです。夫婦2人きりの暮らしに慣れるまでには数年かかりましたね。で、ふたりきりでいられることが楽しかったのは、ほんの数ヵ月。彼も私のことを「だらしない、なんて手のかかる女だ」と思っているかもしれませんけど、夫の機嫌とつきあいながら仕事をするのはちょっとしんどかった。

「リビングで仕事をするのはやめてほしい」と言うので、家の横にちっちゃい仕事場を増築しました。夫が出勤した後に居間のテーブルで原稿を書いていた頃とは変わり、朝ご飯を食べ終えたら、私がパッと仕事場に入り、顔も洗わずに午後2時くらいまで原稿を書くという毎日です。

でもね、これが意外に快適です。いくら好きで結婚した相手でも、1日じゅう2人で顔を突き合わせて過ごしていたらお互いに気づまり。追いかけてようやく結婚してもらった彼なんですけどね。もちろん、夫のことは今でもすごく好きですが、60歳前後の夫婦って、色々な問題が次々と降りかかってくる。

お互いの親の問題もそのひとつ。老親に対する彼のふるまいを目にする度に、これまで知らなかった夫の側面と向き合うことになる。年々状況は変化するし、新しい人と暮らしているように思えるときもあって新鮮と言えば新鮮ですけど、それが私にとっては楽しく思えることばかりとは限らない。

「10年前とは言ってることが違うじゃん」ってモヤモヤすることもありますが、最近は「トシをとって、この人も心が揺れているんだな」と受け入れられるようになりました。長くつきあってみれば、これはこれで私に向いてたかもしれないって思うんです。

でも実は、私も同じなんですよね。「長女なんだから家業を継げ」「将来は親の面倒をみろ」と言い続けてきた両親に対して、「ここで啖呵を切れば、親子の関係を終わりにできる」という時期もありました。けれど、最近、父親のことを描いた小説を書き終えた後、「ネタにしちゃったから」と、両親を温泉に連れて行ったんです。

以前の私だったらかなり勇気の要る親孝行の真似事をやったりして。還暦にリーチがかかる年齢になったことで、頑なだった心が少しだけ和らいで、両親が歩いてきた道のりも肯定できるようになったのかもしれません。すべて、書きながら出した答えなんですけれど。