夏夫くんはお母さんと一緒に一時うちで匿(かくま)っていた。

 あのときは、一応母さんにも事情を話してできることはしてあげなさいって言われて。今は二人はみちかのアパートに引っ越して、もうすっかり落ちついているんだけど。

 母さんは思ったんだって。僕に、母親らしいことは何にもしてやれていない。それはそれで自分の生き方としていたんだけど、この春に高校三年生になる僕は自分の進路を決めてそれに向かっていく時期になる。

 今このときこそ、自分の母親としての務めを果たすべきときじゃないかって、急に思って決意したそうなんだ。

 実家に戻って一緒に住んで、新しい仕事も探して、僕の進路に不自由がないように毎日働いて稼ぐって。

 そして、僕が進路を決めて、もう母親の役目をしなくても大丈夫って思ったらまた東京へ戻るって。

 何というか、自由だなって思った。そういう人だからってことで分かっているから何も思わないけど、でも、笑ってしまった。

「まぁ応援するために来てくれたんなら、良かったよな」

「はい」

 僕が大学へ行こうが専門学校にしようが、とにかくどこでも行けるように稼ぐって、母さんはこっちで就職してしまった。そして、貯金や、持っていたいろんなものを全部売りまくってお金を作った。

 それは、僕が専門学校へ通うのには充分過ぎるお金になっていたし、大学へ行ってもたぶん大丈夫なぐらい。

 あと、じいちゃんとばあちゃんのことも心配しなくていいって言っていた。帰ってきたからには、自分がちゃんと面倒見るからって。

 なんかね、本当に笑っちゃったんだけど。