みちかのお母さんが、うちのおふくろと昔の友人だったからな。なんか、親父を殺したのがまた友人だったっていう古くさいドラマみたいなことにはなっちゃってたけれど、それはまったく別の話だ。
明るくなったよ、おふくろ。毎日さよりさんたちと会って話せるからかな。俺がバイトでいつもいないからおふくろは一人で晩ご飯食べていたけど、今はさよりさんたちと一緒に食べたりしてるんだ。たまにだけど、俺とみちかも一緒に二家族で食卓を囲んだりしてるし。
由希美(ゆきみ)ちゃんは、まるでわたしたちみたいになったねって言ってたな。三四郎(さんしろう)と由希美ちゃんは生まれたときからずっとお隣さんだったんだもんな。そうやって一緒にご飯食べたり、毎日話したりしていたって。
俺の部屋になった六畳間の窓を開けると、鉄製の柵があってそこに腰掛けられる。煙草吸うときには窓開けてそこで吸ったりしてるんで、すぐ隣のみちかの部屋の窓が開いて、話ができる。
引っ越してきてから、よく話すようになったんだよな。暖かくなってきたら余計に窓開けるようになるし。
〈バイト・クラブ〉にはあんまり顔を出せなくなってる。出してるけど基本的には皆がいる時間はバイト中になったから、本当に十分とか十五分の休憩時間だけ。それも混んできて忙しくなったら後回しになって、そのうち皆も帰っちゃったりするからな。
一応、高校卒業したから俺はOBってことになるんだ。あそこは、生活のためにバイトする高校生のための部屋だから。
「バイト、変える? 決まった?」
「や、まだまだ」
「他にいいところがあれば変えるんでしょ。筧さんもそう言ってたし」
「それは、本当にまだ」
やりたいことが見つかって、そのバイトが自分の将来にとって有効に働くものであればそうしようって思ってるけど。
「大学の先輩でさ、将来はステージ関係の仕事をしたいって、照明会社とかでバイトしてる人がいるんだ」
「しょうめい?」
「ライティング。光の照明」
あぁそれ、って頷く。
「そういうふうに繋(つな)がるものがあればな。〈カラオケdondon〉は辞めてそっちにするって話はしてるけど、まだまだ」
「私みたいにだね。調理とかそっちの仕事に進むんならファミレスの厨房(ちゅうぼう)はうってつけみたいな」
「そういうこと」
時間ができた。将来を考えるための時間。余裕ができた。
そして、いろんな思いを共有できる仲間もできた。
それは、とんでもなく大きな出来事だったなって思ってる。
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昭和52年。周平と花の駐在夫婦が暮らす雉子宮は、やはり事件の種が尽きず……。倒れた村長、幽霊騒ぎ、そして埋蔵金まで!? 連作短篇シリーズ第3弾。