桜木 好きなものの方向性が似ているんですよ。ストリップが好きっていうところも。麻紀さんは脱ぐほうで、私は見るほうなんですけど。

麻紀 そうそう、こないだも、東京で待ち合わせしたとき、紫乃さんったら「浅草のロック座で待ち合わせしましょう」って言うから驚いたわよ。元ストリッパーのあたしが言うのもなんだけど、普通の人はストリップ小屋で待ち合わせなんてしないもの(笑)。でも、そんなところも、紫乃さんを好きな理由なのよね。

 

「開拓者の血」を受け継いで

緋の河』(桜木紫乃:著/新潮社)

桜木 実は、私は今でも麻紀さんのことがちょっとだけ怖いままなんです。こうしてお話ししていても、少しドキドキ。

麻紀 あら、何が怖いのよ。(笑)

桜木 「パイオニアの孤独」って言うのかな。私にとって麻紀さんは畏れ多い孤高のひと。若い頃は、それこそ偏見だらけの世の中を自力でサバイバルしてきたわけでしょう。不用意なことを言うと、斬られそうな気がする。

麻紀 そう。私、小学校時代のあだなが「なりかけ」だったのよね。「男のくせに、女になりかけ」って、学校でもいつもからかわれて。

桜木 そういう時代に、よく「自分らしく」いられたな、と。

麻紀 「自分らしく」と言うより、自分の好きなように生きてきただけ。自分の好きに装って、好きな仕事をして、自分の行きたい場所に行く。そんな「どこにでも自由に行ける暮らし」が何より楽しかったのよ。

桜木 やっぱり「流れ者の血」ですよね。北海道の人間はみな何らかの理由があって、家族を捨てて内地から渡ってきた開拓者の末裔だから。

麻紀 あたしのおじいちゃんは馬喰だった。

桜木 同じ北海道でも、海側の人間は博打打ちの血が濃い気がします。うちの父も山っ気たっぷりの開拓2世。祖父母の前の家系もよくわからないので、私も自分がどこかに流れていくことに抵抗がないんです。

麻紀 しかも、あたしは次男坊でしょう。長男は家督を継ぐ義務があるけど、次男は放られっぱなしだから。おかげで、中学生の頃から新聞配達のアルバイトをして、自分の着たい服は自分のお金で買って、高校の学費も自分で稼いで通ってましたよ。