北海道・釧路出身のお二人。撮影:初沢亜利
LGBTに対して世間の風当たりが強い時代から、芸能界で活躍し続けてきたカルーセル麻紀さん。同郷でカルーセルさんの生き方に惚れ込み、小説に書こうと決めた桜木紫乃さん。偶然の出会いから意気投合した2人が、「生きること」について語る(構成:内山靖子 撮影:初沢亜利)

「釧路出身」が結んだ縁

桜木 一般の方から見れば、麻紀さんと私の組み合わせは、「なぜ、この2人が?」と不思議に感じるかもしれませんね。今回、麻紀さんをモデルにした小説『緋の河』を書くことをきっかけに、親しくおつき合いさせていただくようになったんです。

麻紀 そうね。でも、あたしたちの間には、実は共通点がたくさんあるのよね。まず、あたしも紫乃さんも生まれ育ちが北海道の釧路でしょう。

桜木 ええ。私が中学生の頃から、麻紀さんは地元の有名人。麻紀さんのことを話題にするのが挨拶代わりのような町で、私は育ちました。

麻紀 あたしはね、家族に迷惑かけると思ったから、妹が結婚するまではマスコミに本名をいっさい言わなかったの。今でこそ、地元に帰ると歓迎してくれるけど、昔は、キャバレーで名が売れていたときでも、「帰ってくんな! 釧路の恥さらしが」って、石を投げられていましたから。

桜木 中学時代の私には、大人たちの反応がとっても不思議だったんです。『11PM』などのテレビの画面で見る麻紀さんはとてもきれいでした。こんなに美しい人が、なぜ、大人たちから面白おかしく語られなきゃいけないんだろうって。私にとって麻紀さんは「自分の居場所を自分で作った」方なので、なぜ、そんなに貶められなきゃいけないのかわからなかったんです。

麻紀 私が紫乃さんのことを知ったのは、『ホテルローヤル』で直木賞を受賞したとき。私、もともと本を読むのが大好きで、若い頃からジェフリー・アーチャーなどの小説を読み漁り、日本の作家では浅田次郎とか大沢在昌などの本を読み尽くしていたの。で、紫乃さんが直木賞を獲ったとき、同郷の作家だということを知ってすぐに読み、「この小説、大好き」って思ったのね。

桜木 直木賞をもらって本当によかった。小説を書く人間と認識してもらえたことが嬉しいです。

麻紀 『ホテルローヤル』に登場するのはすべて釧路の原風景だから、あの小説には釧路の人間にしかわからない良さがある。紫乃さんの実家が経営していた実在のホテルローヤルがあった、枯れすすきが風に吹かれているようなわびしい風景もリアルに目に浮かんで。おまけに、紫乃さん、あたしと同じ中学に通っていたって。シャンパンや、山崎朋子の小説『サンダカン八番娼館』が好きというところもよく似てるしね。