「今も昔も、常にあたしはまず「自分ありき」だから」(麻紀さん)

桜木 『緋の河』というタイトルは、私たちの原風景である湿原を蛇行する釧路川をイメージしてつけました。河口から海の向こうへ真っ赤な夕陽が沈んでいく。その夕陽に染まる血のような川を、麻紀さんは自分の体を使って最初に渡った人だと思って。

麻紀 いいタイトルよね。赤い色、あたしも好きだし。

桜木 私も麻紀さんと出会って、初めて赤い口紅を買ったんです。この小説を書いている間も、ずっと赤いネイルにしていました。正直な話、直木賞をいただいて以来、小説を書くのがつらいと感じることもあった。

でも、この『緋の河』を書き始めてから私自身もどんどん元気になって、小説を書くのが楽しい、自分は好きで書いているんだと、改めて思えるようになりました。この小説を通して、誰よりも私自身が主人公の生き方に勇気づけられたんです。ふがいなかった自分の10代を、書くことでやり直せたような気がします。

 

「生きづらさ」とは何か

麻紀 客観的に見れば、若い頃のあたしは確かに生きづらかったのかもしれないわね。でも、今の時代のほうがずっと不自由で生きづらく感じるわ。テレビやラジオに出るときも、うっかり放送禁止用語を口にしちゃいけないと、みんなビクビクしているでしょう。言葉の問題だけじゃなく、ふるまいひとつとっても、世間から常に監視されているみたいで。

桜木 世間の空気がどんどん窮屈になっているような気がしますね。