自力で編み出した“療法”で快方に向かって
カウンセリングと独自の工夫で快方に向かったと話すのは、商品ジャーナリストの北村森さん(52歳)だ。パニック発作を起こしたのは、雑誌編集長を務めていた40歳のとき。出張のため飛行機に乗ろうと、機内に足を踏み入れた瞬間だった。
「突然汗がばーっと出てきて、『閉じ込められる! 2時間も機内にいるのは無理だ!』と。なんとか平静を装って搭乗をやめました。そこからは一気に悪化して。1~2ヵ月の間で、新幹線、地下鉄、会議室……ダメな場所が増えていき、最後には、家でトイレのドアを閉めるのさえ怖くなった」
悩んだ末に北村さんが取った行動は、実に大胆なものだった。会社を辞め、当時6歳だった保育園児の息子と全国列車の旅に出ることにしたのだ。「1年間、自由にさせてほしい」と妻に頭を下げ、100万円を融通してもらって始めたこの冒険は、『途中下車』という本になり、ドラマ化もされて、話題を呼んだ。
「カウンセラーから、『パニック障害って、治るというより、忘れるという感覚に近いですよ』と言われて、すごく楽になったのです。それで、『夜行の北斗星とカシオペアに乗りたいんだけど、乗れますかね』と聞いたら、『乗りたきゃ、乗ればいい。わがままでいいんです』と。ああ、俺は乗りたい、と思ったのですね」
受動的に追い立てられるのではなく、自ら選び取った行動ならば不安が生じにくいということを、北村さんは経験から学んでいった。
どういった条件が揃うと発作が起きるのか。それは本人にすら説明がつかないのだと、北村さんは言う。
「飛行機でハワイに行けるまでになったのに、新幹線はのぞみは苦手でこだまに乗ります。ライブ会場では通路側だと平気なのに、真ん中の席だと考えるだけでもぞっとする。パニック障害になった人の数だけ、原因や背景、発症の仕方があると僕は思うのです。経験者だからといって、決して一概に語れるものではない」
生命の危険がない場所で、死の恐怖を感じる。それは確かに脳の誤作動だろう。だが見方を変えると、「少しスピードを落とそう」「ちょっと無理しすぎでは」「思いつめないほうがいいよ」などという、体と心からのシグナルではないかとも感じるのだ。