もともと、神経症の人たちは「生」のエネルギーが強いと言われている。不安はいわば「生きたい」と願う欲求の裏返しなのだ。

「今でも発作に対する不安は完全には消えません。ただ森田療法を学習することによって、薬に頼らずとも症状が軽くなり、健康で前向きな生活が送れるようになった。人生の『耐力』がついたのですね」と岡本さんは笑う。

同じく「生活の発見会」で活動する野田芳子さん(56歳・仮名)も、最初の発作は若いころに起きた。

22歳のとき、朝の通勤電車内で突然お腹が痛くなる。停車駅間が長く、身動きさえもできない車内で味わった恐怖は、深く脳に刻まれた。以来、乗り物やトイレのない場所にいると不安に襲われ、腹痛を起こすように。

「美容院や歯科医院にも行けなくなりました。束縛される時間がすごく恐怖で……。過敏性腸症候群の診断を受けて薬をもらったこともありますが、全然効かなかったんです。その後、パニック障害だと判明しました」

10年前に森田療法と出会う前は、治りたいとひたすら願ってきた。だが、考え方を変えることで、発作との付き合い方がわかった、と野田さんは言う。

「私には、人に頼らず自分で完璧にやろうとする傾向がありました。同居していた義父母の介護や子育て、仕事、すべてを一人で抱え込む。でも今は、完治しなくても、不安を抱えつつ、やるべきことさえやれればいい、妥協していい、と思えるようになりました」

それと同時に、日常の小さな幸福にも気付けるようになったという。野田さんの場合は、夫の理解が大きな支えになった。外出前には夫が「トイレに行った?」と確認するのが、今では二人のおきまりの儀式だ。