目標を持つ人間の強さ

その後、ひとみは大動脈解離で倒れ、車椅子での生活になる。七実はそれまで大学に興味のなかったが、進学を決意する。ひとみの車椅子を押して街に出た際、目的地だったカフェには入口に段差があったために入れず、道行く人も冷淡だったことが発端だ。

みじめな気持ちになった2人は人目を憚らず泣いた。七実は「ママ、一緒に死のうか」と言った。しかし、こう付け加える。「ちょっと時間頂戴。ママが生きていたいと思うようにするから」。そのためにはどうすればいいのか。出した答えが進学だった。選んだ学部は人間福祉学部である。

「やさしい社会にして、あのカフェの入口の段差、ぶっ潰す!」

家族のためになりたいという思いが社会を変える原動力になることもあるだろう。学費は耕輔の遺族年金、学資保険、奨学金で賄った。サークルには入らなかった。

こう書くと、ドラマを観ていない人は、七実が息の詰まりそうな日々を送っていると思うかも知れないが、それは違う。七実がそもそも陽性である上、ひとみが生きる希望を持てる社会をつくりたいという目標を持っていたからだ。目標を持つ人間は強い。

第3話 場面写真 七実は希望を失いかけた母・ひとみを父が生きていた頃の思い出の旅の場所に連れ出す(『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』/(c)NHK)