たくさんの卒業

広い家には夫と私が残った。
その頃定年退職をしていた夫は、毎日車で何処かへ出掛けていた。仕事を卒業した夫は特にする事も無く、ただただ車で徘徊し、ガソリン代と年金が同額だったりした。

しばらくして施設にいた姑が老衰で死んだ。
これで姑から正真正銘の卒業となった。40年もかかった。開放感いっぱいで、涙なんか出なかった。

と同時に、これで終わりでは無いと気づいた。
「この先もまだ私はずっと夫の世話をして行くのか」と絶望した。いったい私は、いつ自由になれるのか。もう夫からも卒業したかった。

三度の飯が黙って出て来ると疑わない夫。聴く耳を持たない夫。
しかし悪い事はできないものだ。結婚して46年目の夏に、夫の浮気が分かった。これを機会に、夫から卒業出来るかもしれない。

離婚を即決した。
夫は余りの展開の速さに驚いた様子だったが、周囲の噂話を恐れて町を出て行った。夫を恨む気持ちはサラサラ無い。私を自由にしてくれたのだから。

私は、住む場所も観る景色も違った人生を手に入れた。
多くの物から卒業して、念願だった初めての一人暮らしを謳歌している。

現在72歳になったが、楽しい日々を送っている。

そうそう、「墓じまい」をして墓からも卒業したのを追加しておく。


※WEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」がスタート!各テーマで投稿募集中です
投稿はこちら