いつも子育て中の社員のフォローをしてきた
ちひろさんの会社でも、例えば、男性社員は最初から管理職を目指す出世コースでした。女性は現場に立ち続ける人が多く、一部の専門職を除けば、管理職になれるのはごく少数。育休や育児時短で女性社員が抜けると、その欠員は補充されずに、女性の同僚だけでカバーしました。ちひろさんのようなシングル女性が負担を被りました。
「女性だからこそ女性の大変さがわかるでしょう、だからカバーしてね、みたいな風潮だった。だから、育休、産休、育児時短の人たちの穴は、私は、たくさん埋めてきた。交代勤務職場で、夜に働けない人がいた時は、いつも私が夜勤をぜんぶ担当していた」。特に、配置人員の少ない職場では、子持ち社員のしわ寄せが、ちひろさんにもろに来た、と言います。
たとえ同じ8時間拘束でも、夕方早く帰れるのと、夜遅くに帰るのとでは、一日の価値が違う、とちひろさん。早く帰れれば、買い物をしたり、友達と食事したりと、プライベートも楽しめます。でも遅くまで働くと、友達にも会えないし、ただ帰って寝るだけになります。価値ある早い時間帯を「機会損失」したように感じます。「育児支援でほかの人をフォローしたために自分は享受できなかった早い時間帯の分を、社会から還元されたいよ」と、ちひろさんはぼやきます。
もちろん、子育て支援策も、取得できる職場環境も、すばらしいです。問題は、会社が、欠員補充など適切な人員配置をしなかったこと。つまり経営の責任です。休んだ人の分を負担させられる側は不満を抱きます。社員間(特に産んだ女性と産んでない女性)の分断や、結果的に「育休を取りにくい雰囲気」の醸成につながります。ほんとうは、シングル女性の敵はワーママではなくて、欠員補充をしない会社や幹部なのに、女性の間に無駄な軋轢を起こします。
ともあれ、いつもいつも子育て中の社員のフォローをしてきたちひろさん。「お互い様だから」「いずれあなたの時も」と言われましたが、現実には独身のままで、「順送り」のフォローを受ける機会はありませんでした。ひとりで迎える定年後が見えてきて、腹を立てています。