シングルには何もない

「なんで全部、私がかぶらなくちゃいけなかったのかしら。あんなに周囲を助けてきたのに、こんどは自分は誰からも助けてもらえない。自分が老後になっても、何もない。税金だってちゃんと払って、国に貢献して来たのに、国は助けてくれない。国はシングルに冷たい。子育て支援策ばっかり。少子化で、子どもを増やしたいんでしょうけれど、私はこの30年、ひとのフォローをしてばっかり」

社会の構成員として、働いて税金を納めてきた。でもそれに見合う補助やリターンが、独り身には感じられない、というのです。これは全シングルに共通の感覚ではないでしょうか。ちひろさんは、損をした気分だと言います。

「家族持ちの男性社員は、扶養控除とか、子育て手当とか、控除や補助がもらえる。でもシングルには何もない。おひとりさま施策、おひとりさま補助は、ない。ぜんぶ自分でどうにかしろ、って言われる。それって、ずるくない? 悔しい。家族手当があるなら、ひとり手当が欲しい。そもそも、税制や社会保障は、世帯単位じゃなくてパーソナルにしてほしい」と、ちひろさんは訴えます。

パーソナルじゃない仕組みは、国がよくモデルとして用いる標準世帯(夫が働き、妻は専業主婦、子ども2人)に代表されます。例えば第三号被保険者。厚生年金の加入者(会社員や公務員)の配偶者で、年収130万円までは保険料が免除されます。多くは妻です。彼女たちは、俗に言う「130万の壁」で労働時間を調整します。ただ、第三号が払っていない保険料は、厚生年金の加入者全体でカバーします。つまり、他人の専業主婦の保険料を、ほかの共働きと独身の男女も負担させられているのです。専業主婦のいる世帯のほうが高給取りなのにもかかわらず。

さらに、税制も、控除は世帯単位です。主たる生計維持者(多くの場合は夫)には「扶養控除」などの控除がつき、税金が安くなります。この上限が103万円なので、こちらは「103万の壁」と呼ばれます。夫婦の収入を合算したら、稼ぎの多い夫の税金を低くできて、家計全体ではプラスです。でも控除を受けて税金で得をするのは世帯主であって、パートタイマーの妻自身が得をするわけではないのですが。