独身者より家族持ちのほうが、月給もボーナスも高い

さらに会社も、家族持ちを優遇します。海外企業にはありませんが、多くの日本の企業は、正社員に手当や補助を、本給にプラスして支給します。うち、「家族手当(扶養手当)」は「扶養家族のいる世帯主」だけの支給で、「家賃補助」は、家族持ちのほうが独身者よりも補助額が多いです。これらの手当や補助もボーナスの算定基準に入れる会社が多く、となると、同じ職種・職階で同じ成果でも、独身者より家族持ちのほうが、月給もボーナスも高くなります。成果給の幅が少ない企業では、独身で高い成果を出している社員よりも、仕事ぶりの悪い家族持ちの社員のほうがボーナスが多い、といった不合理・不公平な逆転現象まで起きてしまいます。

しかも、給料は年金に影響します。「手当」「補助」は月収を押し上げ、年金の算定基準が高くなります。収める保険料も上がりますが、将来もらえる厚生年金も増えます。つまり、労働の成果と関係なく、扶養家族がいることが、現役時代の月給や年収、そして将来の年金額にもプラスになるのです。ライフスタイル中立的な税制・社会保障制度、給与制度とは言えません。国や企業による「シングル差別」「DINKS差別」と言っても良いでしょう。

「パートさんたちは裕福なのよ。夫の扶養の範囲で働いてて」と、ちひろさんは溜め息をつきます。職場にいるパートの女性たちは、夫の収入があるうえで短時間だけ働いていて、ちひろさんよりよほど、時間的・経済的にゆとりがあるように見えます。

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ちひろさんといえば、あくせく働いて、一人で生きて、一人で税金も払い、一人で老後にも備えるのです。妻のいる人は妻が家事をしてくれて、老後の面倒も見てくれるでしょうけれど、「一人だって光熱費もかかるし、家事もしなくちゃいけない。でも、手当も控除もなにもない! 誰かにこれやっといて、って託せない」。例えば、役所への届けなど公的なところに行くには、休みを取らなきゃいけません。コロナで寝込んだって、食料を調達するには誰かに頼まなくちゃなりません。「世帯の中で完結できるファミリー層とは違って、社会生活を営むためには、誰かに委託する必要がある。そのための手当が欲しいよね~。つまり、ひとり手当」。シングル差別に対して、ちひろさんは釈然としないままです。

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ちひろさんの言う、「シングル向けには行政の支援が何もない」という不満や、「税制や社会保障制度を標準世帯向けじゃなくて、ライフスタイルに中立的にしてほしい」という訴えに、賛同するシングルは多いのではないでしょうか。いまや50代女性の3割がシングル(バツイチ含む)です。税金や社会保険を納めてきたのに、恩恵には浴してない、いつも政府の支援対象から外れている、と理不尽さを感じてきたシングル女性も少なくないでしょう。