中間層が消えつつある

先進国共通の問題ですが、少数の富裕層と大多数の貧困層に二極分化し、いま中間層が消えつつあります。富裕層は投資によって資産をより増やすことができますし、働けない人には最低限の保障として生活保護といった福祉があります。けれど、富裕層ほど余裕もなく、生活保護にならない程度には自分で稼げる中間層は、国から放置され、公的な政策の対象になっていません。でも、この層が高齢になった時、インフレや住居費の高さから、年金だけでは暮らせず、一気に貧困層になる危険性があるのです。

現役世代のシングル女性も、これまでは中間層で、自助努力で何とか自分の暮らしを立ててきました。もちろん、比較的安定した正社員から、ギリギリで生活している派遣やフリーランスまでグラデーションはあります。でも共通するのは、自力で何とかしてきたということです。健康で働けるうちはいいですが、何かが起きた時はどうなるでしょう。行政のセーフティーネットの網の目から漏れてしまいます。

ちひろさんは正社員で、幸いにも中古マンションを、ローンを組んで買えました。でも、シングル女性のみながみな、こんなふうに自力で家を確保できるわけではありません。正社員ではなく、収入が不安定で、ローンが組みたくても組めない人や、そもそも低賃金ゆえ貯蓄ができず、自己資金のない派遣労働者やフリーランサーもいます。

しかも、これから一人暮らしの高齢者は増えるいっぽうです。国立社会保障・人口問題研究所が今年4月に発表した将来推計では、2020年に38・0%だった単独世帯(一人暮らし)は50年には44・3%に上昇します。65歳以上の一人暮らし世帯も同様に(2020年→50年)、女性で23・6%→29・3%、男性で16・4%→26・1%に上がり、うち未婚率は、女性で11・9%→30・2%、男性で33・7%→59・7%になるとの推計です。つまり、今も全世帯の3分の1を占める一人暮らしは、2050年には半数近くになり、一人暮らしの高齢者は女性の3割、男性の4分の1に及ぶ、とされるのです。

福祉の範疇には入らないけれど、人口の多い中低所得・少資産の中間層のことも、国にはぜひ、考えてほしいところです。特に、標準世帯モデルから外れているシングル世帯のことも、政策対象として考慮すべきでしょう。税金による富の再分配の意味でも、貧困層を増やさないためにも。前述の通り、すでに単身世帯は4割近い大集団で、無視できない存在なのですから。

せめて、高齢シングルが住む家に困らないように、公的な住宅施策を充実してほしいものです。URのような中所得層向けの住宅の拡充が、今後、3割にも及ぶ「高齢単身世帯」のためには必須でしょう。新築でなくても、既存住宅の活用でいいのです。例えば、都会にこそ大量に余っている空き家の一部を、高齢シングル用のシェアハウスに用途転換・大規模改修すれば、低価格・低家賃の住宅を大量に提供できるのではないかと、モトザワは思います(空き家は地方だけでなく都会にも多く、全国最多の空き家があるのは世田谷区と大田区です)。

高齢になった元中間層用の住宅を拡充する施策や補助を国や自治体が考えてくれれば、生活の基盤たる家が確保できます。シングルが高齢になってから路頭に迷わずにすみます。だって、家族持ちだけでなくシングルだって、社会の一員として、きちんと働いて税金を収め、社会に貢献してきたのです。少しは報いてくれてもいいんじゃないかしら。ねえ。
 

本連載をまとめた書籍『『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)』が発売中