平均年齢33歳、36人のエリートが出した結論は「開戦はできない」だったのだがーー
世界に衝撃を与えた真珠湾攻撃。それは日本が敗北への道を歩み始めた決定的瞬間でもありました。しかし、その攻撃が行われた昭和16(1941)年12月8日からさかのぼること約半年、若きエリートを集めた「総力戦研究所」で行われたシミュレーションで「日本はアメリカに負ける」と予言されていたのです。そしてその中には『虎に翼』で岡田将生さん演じる星航一のモデル・三淵乾太郎も――。『昭和16年夏の敗戦』(著:猪瀬直樹)をもとにその背景と経緯を紹介します。(全2回記事の前編)

予測されていた「日本必敗」という結論

太平洋戦争については、軍部の暴走によって無謀な戦争に踏み切った結果、敗戦を喫したというシナリオが、おおむね今の日本人のあいだに浸透している見方だろう。

だが、当時の軍人たちが無知蒙昧な悪人集団であったというとらえかたは、あまりにも表面的である。

なぜなら、開戦後のシミュレーションは、適切な人材とデータによって、きちんと事前に行われていたからである。そして、「日本必敗」という結論もはっきりと予測されていた。当然ながら、その内容を、軍部も含む当時の中枢機関は把握していたのだ。

状況の分析と予測はできていた。その内容を皆が知っていた。

では、それにもかかわらず、なぜ開戦したのか。

昭和16年夏の敗戦』を読むと、当時の意思決定の場において、何が起きたかがよくわかる。それは、いかにも日本らしい、現代においても私たちがよく目にするような状況が生じた結果だったのだ。