阿岐本と多嘉原会長は生ビールを注文してジョッキをカチンと触れ合わせたが、ほとんど飲まずにカウンターに置いた。
日村はカウンターの脇に立ったままだった。
午後七時十分頃、大木と原磯がやってきた。大木がエリに言う。
「貸し切りって、何?」
「阿岐本さんが、そうしたほうがいいって……」
大木がカウンターの阿岐本と多嘉原会長を見て、頭を下げた。
「あ、多嘉原会長……。ご無沙汰しております」
何だか落ち着かない仕草だ。原磯は何も言わない。日村は原磯を見て、様子がおかしいと思った。
阿岐本も二人の様子に気づいたようだ。
「何かありましたか?」
それにこたえたのは原磯だった。
「高森さんの態度が急変しまして……」
「態度が急変……?」
そこにまた来客があった。谷津だった。エリが阿岐本に尋ねた。
「この人も連れ?」
「ええ。中目黒署の谷津さんです」
店内を睥睨(へいげい)した谷津が、仙川係長と甘糟に気づいて言った。
「あ、北綾瀬署の二人だな。こんなところで何してやがる」
阿岐本が大木と原磯に言った。
「奥の席に行きましょうか」