義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
「こちらから出向こうと思っていたのですが……」
阿岐本が多嘉原会長に言った。「結局、ご足労いただくことになり、恐縮です」
「いえ……。こちらへうかがいたいと申したのは、私ですから……」
「いろいろとご報告がございまして……」
「はい」
「伊勢元町の不動産屋が宗教法人ブローカーと手を組んでいるらしいという話はしましたね?」
「うかがっております」
「その不動産屋は原磯といいます。付き合う相手を間違えるととんでもないことになると、釘を刺したんですが、どうもまだわかってねえようでして……」
「宗教法人ブローカーは、西の直参というお話でしたね」
「はい。高森浩太という名です」
「花丈組二代目でしたね」
「そうです。その後、高森について何か思い出されましたか?」
多嘉原会長はかぶりを振った。
「いや、記憶にございませんね。申し訳ねえですが、なんせこの年なんで、昔のことはだんだん曖昧になってきてまして……」
「そうですか。いや、お気になさらないでください。そういうのはお互いさまですから……」