「そうですよ。阿岐本さん。あなたもご存じのはずだ。田家村(たけむら)さんが連れて歩いて、小僧、小僧と呼んでいた……」
「ああ、そういや……」
 何のことだろう。日村は、高森と阿岐本たちを交互に見た。
 高森は、まだ凄んでいたが、突然ぽかんと口を開けた。
「あれえ……。もしかして、多嘉原会長ですか?」
「おうよ」
 多嘉原会長が言った。「なんだ、花丈組の二代目ってのはおめえさんだったのかい。高森って言われてぴんとこなかったんだが……」
 高森はすっかり驚いている様子だ。
「え……? どうして会長がここに……」
「俺だけじゃねえぜ。阿岐本さんだ。有名な親分さんだから、おめえもお名前くれえは知ってんだろう」
「あっ。あの阿岐本さんですか。もちろん、存じております。オヤジと兄弟盃を交わしておられるとか……」
 阿岐本が言った。
「ああ。田家村さんとは、そんなこともあったねえ」
 え……。どういうことだ……。日村は混乱した。田家村というのは、花丈組初代組長の田家村要(かなめ)のことだろう。
 その田家村と阿岐本が兄弟盃を……。
 多嘉原会長が言った。
「あの小僧が、今じゃ二代目かい。たいしたもんだねえ」
「いえ、そんな……。え……? 何で……?」
 高森の凄みも貫禄も消し飛んでいた。訳がわからず、ただおろおろしている。
 多嘉原会長の言葉が続いた。
「西の直参だって?」
「あ、いえ、そうじゃなく……」
「違うのかい」
「直参ってのはオヤジのことでしょう。自分は違います」
 つまり初代組長の田家村は間違いなく直参だったが、二代目の高森はそうではないということだ。