書を家でコツコツと稽古している

書については、題字・書道指導の根本知先生に教えてもらっています。まひろは書を書く時に仮名が多い人なので、仮名文字を中心に書いていて。でも、道長との文通では漢字を入れてみたり。いよいよ『源氏物語』を書いていくにあたって、仮名と漢字を両方やってきた集大成が始まるという感覚があります。『源氏物語』には漢字も仮名も両方出てきますし、現代ではあまり使われない変体仮名も出てきますし。不思議なんですが、今ではふつうに変体仮名を読めるようになってきて、すっかり身に付いてるのが怖いです。(笑)

もともと左利きですが、右手で稽古しました。もう左手で筆を持つのは無理だと思います。きっと傾きも変わってきますし、文字の膨らみかたも変わってきますし。筆を右手で持つか、左手で持つかによって、筆の毛先の向きが変わるんです。なんだか自分自身と一緒に、筆も育てている感じが、すごく楽しいですね。

当初は書に対するプレッシャーもありましたし、わからないものを覚えていく楽しみもありました。できないものができていくというのは、すごくワクワクすることもあります。ただし、それは撮影の本番でやらなくてはいけないから、公開テストではないですが、試験に受かるか受からないか、公開されながらやっているみたいな感覚もあって。書を書く時は怯えながらやっていますね。(苦笑)

書き続けると、その人の癖も出てくるらしく、根本先生はそれも理解した上で「こっちの字のほうが相性がよかったね」とか、「あえてこういうふうにやってみよう」とか、いろいろと組み合わせて字を考えてくださるので、面白いんです。ゴルフにたとえると、きっとキャディさんみたいな存在ですよね。書はすごく孤独な作業なんです。練習時間は膨大なのに、文字の撮影時間は30秒もしないうちに終わってしまう。家で書いている時間の孤独さを一番わかってくれるのは根本先生だと思うので、まるで相棒といいますか。一緒に挑戦している感じが嬉しいですね。 

書くシーンでは手が震えがちなんですが、それも日によって違うんです。本当は書のシーンを撮影する前に40分ぐらい稽古できたら、やっと線が安定してくる感じがあって。でも現場を40分も止められないので、10分でもなんとかする。手が温まる、と言ったらいいのか。本番の10分前で、なんとか書けるように仕上げていきます。線の向き、筆の傾き方など、どんな時もすぐ書けるように、家でコツコツと稽古するしかないんですよね。

でも、家でできても本番になると、スタジオの湿度や風の向き、墨の具合や乾き方で文字が変わってきます。家でやるのと同じようにいかない時があるので、スタッフのみなさんには、うまくいくようお祈りしていてくださいと言って、本番で気合を入れてやっています。