近年も映画の賞なんかもらうと素直に嬉しいんだけど、トロフィーは全部関係者にあげちゃうの。そんなだから……。生理的に嫌な相手でなくても、価値観の違う人と暮らすのは難しいんですよ。

でも内田には感謝してます。世間の人は、私を勝手な夫に振り回された気の毒な女みたいに思ってるかもしれないけど、そうじゃないの。

私は若い頃のある時期、仏教書に引き寄せられていました。なかでも心に残っているのが、お釈迦様にダイバダッタという、どうにもままならない弟子がいなければ、釈迦は悟りをひらくことができなかったというお話。私にとって内田は、ダイバダッタなんですよ。

どんな夫婦だって、互いが互いのダイバダッタなんじゃない? 人は一人で生きていかれないこともないんだけど、伴侶と出会うことで生じる摩擦にどう対処するか、どうやって自分の気持ちに折り合いをつけていくかってのは、わりかし大事な人生修行なんじゃないかと思いますね。

 

さっと譲ってしまえば楽になる

あれはいつだったか、養老孟司さんと話していたら、養老さんが奥さんから「あなたって本当に人を見る目がないわね」と咎められたと言うの。「どういうふうに返したんですか?」って訊いたら、「家内をじーっと見て、『本当にそうだね』と言いました。笑い合って、この話はおしまい」って。長年連れ添った夫婦なら、こういうウィットに富んだ知的な会話をしたいもんだなぁって思いましたね。

結婚の縁に恵まれたとかよく言うけど、縁というのは、自分と同じレベルの人としか結ばれないと相場が決まっているんですよ。だから私は誰かが夫の悪口を言い出すと、「あらー、大変じゃない」とか言いながら一通り聞いて、心の中で「この人も夫と同じレベルなのね」って思うんですよ。(笑)

相手のことを変えようというのは浅知恵ね。それより「自分はどうなの?」って考えなくちゃ。夫婦間のストレスをなくすためのコツも、全部、原因は自分にあると思うこと。これに尽きます。「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みーんな私のせいなのよ」って昔あったけど(笑)。私もそんな感じですねぇ。

ここまでくるともう、内田に何を言われても文句も出ない。「あ、そうなの?」って思うだけ。雪景色を見て夫が「雪は黒いな」って言ったら、「どこもかしこも真っ黒ね」って話を合わせるところまでは行けそうですよ、私。