撮影:大河内 禎
2019年の年間ベストセラー1位(トーハン・日販調べ)になった樹木希林さんの『一切なりゆき』。樹木さんの残した言葉は今も多くの方の心をひきつけています。プライベートでは、長く別居生活を続けながらも、内田裕也さんとの結婚を貫いた樹木希林さん。その独特の夫婦関係をどのような思いで続けていたのでしょうか。2015年に収録されたインタビューから、未公開部分をご紹介します(構成=丸山あかね)

わりかし大事な人生修行

ここへきて私たち夫婦もなかなかいい関係になってきましたね。ちっとも本質は変わらないのだけど、歳とともに、互いに互いの受け止め方が変わってきたんですよ。摩擦がなくなって、今はぜんぜん揉めません。

結婚当初、一緒に暮らしていた頃は毎日のように大喧嘩。言い合いじゃすまなくて、でも手だと痛いから、私はモノで叩いてたの。内田(裕也さん)の頭から血が流れ出したこともあったけど、人から「どうしたんですか?」ってかれて「女房にやられた」とは言えなかったんじゃない? 「ちょっと……」って誤魔化していたら、「どこの組の人にやられたのか」なんて騒ぎになったこともあったみたいですよ。(笑)

今は内田に同じことを同じように言われても、フワッと受け止めて、「なるほどね~」とか「わかるわよ」って答えて受け流すの。そうするとあちらも気分がいい。本題はともかく、自分の意見に同調してくれたってとこに反応して穏やかになるのよ。男は可愛らしいわね。女はしたたかだけど。

それに会うのは1年に一回か二回くらいですからね。毎日一緒になんかいられないわよ。いられないから別居したんだもの。

結局のところ、たまに会うっていうのが私たちにふさわしい距離感なのね。半年に一度なら話したいことも溜まってるし。たいがい私は聞き役で、内田がずーっと喋ってるんだけど。

家を新築したとき、夫の部屋も用意したんです。一応、表向きは「いつでもお帰りください」とは言ってるけど、戻れずにいますね。

まず荷物の分量が違うんですよ。一緒に暮らしてた頃から、内田の荷物はすごい量だった。私が「また買ってきたの?」って咎めると、「これ、安かったんだ」とか言い訳するんだけど。値段じゃないのよ、物が増えるのが嫌なんだから、私は。