人が心を通じ合わせるまで
僕がもう一つ描きたかったテーマに、「人と人とのつながり」があります。実はデビュー前の2015年に、同じタイトルの短篇を新人賞に応募し、最終候補で落選しているのです。言葉も立場も違う人たちが心を通じ合わせるまでの過程を描くには、枚数も実力も足りなかった、と今は思います。選考委員の先生の「いつか長篇で読んでみたい」という評を励みに、再挑戦したのが本作なのです。
長篇化にあたって史料を再調査するなかで、「踊念仏」で知られる一遍上人が六郎の親戚であるとわかりました。意外なつながりに興奮しましたね。出家後に故郷の伊予に何度も立ち寄っている記録もあり、河野家の運命を見守る「目」の役割を彼に担わせました。
僕は作家としてデビューする前、父の始めたダンス教室でインストラクターをしていて。踊りというものの得体の知れない高揚感、連帯感といったものを肌で知っています。それで、踊念仏が体制側にとって脅威であったというのも体感としてわかるんです。
僕はダンサーとしては花開かなかったのですが、そのぶん、できない人の気持ちがわかるから教えるのがうまかった。たとえば「バランスを取る時は2枚の板に挟まれたように」など、言語化して伝えられたのです。踊りの描写やクライマックスの戦闘シーンで、臨場感を出せたとすれば、この経験が生きたのかもしれません。