理想を語ることも作家の役目

令那の故郷はキエフ・ルーシ公国(現在のロシア、ウクライナ、ベラルーシ)。これは15年当時からの設定で、22年のロシアによるウクライナ侵攻とは無関係です。現実にも小説に書いたような悲惨な出来事が起きたことで、僕はその時に考えていた物語の結末が綺麗事に思え、一度は変更を考えました。

悩んだ挙句、理想を語ることも作家の役目なのではと思い直した。世界がこうあってほしい、という願いを描くことが、戦争への最大の抑止力だと思うからです。

これから書きたいテーマは、ずばり坂本龍馬です。書店経営を始めたのは、全国で書店の閉店が相次ぎ、活字文化が縮小している現状をなんとかしたい、という思いがありました。

書店組合や流通業者、出版社、経済産業省の会議にも顔を出して意見を伺うと、物流コストの問題一つとっても意見はバラバラ。薩長同盟のような劇的な出来事はなかなか起きそうにありませんが(笑)、“一人海援隊”として、間をつないでいきたい。そこでのさまざまな苦労を経て、一介の素浪人として幕末を生き抜いた龍馬の気持ちが、今すごく理解できる気がしているのです。

本作から続く「世界の中の日本」という視点からも、きっと面白い作品ができると思います。ぜひ期待してお待ちください。