『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『名場面でわかる 刺さる小説の技術』の著書を持ち、文芸評論家として活躍中の三宅香帆さん。会社員として勤務していた当時、「本を読みたいのに読めない」状態に悩み、そして多くの人が同じ悩みを抱えていることに気付いたと話します。この問題は個人より社会の問題ではないかと考え、読書と労働の変遷について調べてみたところ――。(構成:山田真理 撮影:小石謙太)
読書は未知との出会いの場
読みたくて買った本なのに、ページを開く気力がない。読み始めても、途中で止めてしまう――そうした悩みを同世代の働く友人たちから聞いたのが、本書を執筆するきっかけでした。気づけばなんとなくスマホをいじって、SNSやゲームで時間をつぶしていると。それは単純に、「忙しくて時間がない」とは別の問題だと言います。
私も同じような体験を、社会人1年目に経験していました。幼い頃から本の虫で、それが高じて文学部に進み、大学院在学中に書評家として活動を開始しました。それなのに就職後は書店に足が向かなくなり、好きな作家の新刊さえ追えなくなっていた。
そんな生活に耐えきれず、3年半で会社を辞めました。当時の体験や友人の声を文章にしてネットに公開したところ、「自分もそうだ」という声が驚くほど寄せられたのです。
「働いていると本が読めない」という問題は、個人というより社会全体の問題なのではないか、とそのとき直感しました。
また、前職で人材派遣や転職サービスに関わるうち、「日本人はどのように働いてきたか」という労働の歴史にも興味を持つようになって。そこで、働く人たちはどのような本を、どういった目的で読んできたのか、読書と労働の変遷について考察したのが本書です。