「それまで正直、〈踊りは映像に撮れないものだ〉と思っていました。ところが編集という手が加わることで、逆にその時、やりたかったことが蘇ってくるんですね」(撮影:木村直軌)
独自の踊りを模索し、半世紀近く、世界中で活躍を続けるダンサーの田中泯さん。森や海、田畑や路上など、あらゆる場を舞台に踊っています。俳優としても活躍し、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では藤原秀衡(ひでひら)を演じる田中さん。その原点と、1月28日公開のドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』について現在発売中の『婦人公論』2月号で語っています。リニューアル1号目となる本誌から特別に本文を公開します(構成=篠藤ゆり 撮影=木村直軌)

狭い部屋で踊っていても、地球と繋がっている

――世界的なダンサーとして活躍する一方で、役者としても圧倒的な存在感を見せる田中泯さん。72歳から74歳までの2年間、海外と国内各地で踊った軌跡が、ダンスドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』に結実した。福島の帰宅困難地域やパリを経て、ポルトガルの街角で踊り終えると、「脳みそが海に沈んでいきそうな感じ。幸せ」と笑顔で語る。

 

ドキュメンタリー作品を作るという話が持ち上がった時、監督には、「その場で起きたことを再生しようなんて、一切考えないでほしい。作り直すつもりでやってください」と言いました。踊りの順番から何からバラバラにして編集していただいてかまわない、と。それでこそ、面白い作品ができると思ったからです。

すべてを委ねようと思えたのは、やはりかつて『メゾン・ド・ヒミコ』で声をかけてくれた犬童一心監督との信頼関係があるからでしょうね。僕の踊りも、ずいぶん見てくださっていますので。

僕がやってきた「場踊り」は、その土地その土地で、即興で踊るものです。お客さんは360度どこから見てもいい。手だけを追いかけている人もいれば、足の爪先ばかり見ている人もいる。みんな、自由です。時には指をちょっと動かすだけで、ふーっとそこにみんなの視線が集まったりする。

そんなふうにお客さんと一体になることで、踊りが生まれます。

僕は、踊る人間と見る人間の間に、「踊り」というものがあると考えているのです。さらに言うと、どんな狭い部屋で踊っていても、地球と繋がっていると思っています。100人の前で踊っていたとしても、無限の人に向かっていて、その中の100人が今目の前にいる、という感覚なのです。

時間も同じで、非常に複雑に延々と広がり、未来へも続く無数の襞の中の一コマに自分はいる。それが僕の強い観念です。

それまで正直、「踊りは映像に撮れないものだ」と思っていました。ところが編集という手が加わることで、逆にその時、やりたかったことが蘇ってくるんですね。ドキュメンタリーの時間を通して、僕の姿勢というか、取り組みが皆さんに伝わるのではないか。見た人は、その場にいたわけではないけれど、何か実感のようなものが身体にやってくるのではないかと思います。