私は何にも後悔しない

『愛の讃歌』は、70年たった今も世界中で歌い続けられる曲で、私もよく歌うが、何度繰り返しても全力で歌いたくなる歌だ。人生そのものがドラマのような、エディット・ピアフだから書いて歌うことができた曲なのだろうと思う。そして、この映画を見れば、私が「オリンピックでのセリーヌの歌唱は大抜擢」だと評したことを、理解頂けるのではないか。

ただ、セリーヌはピアフほど破天荒でもなく、品もある。セリーヌはピアフとは違い、まだまだ生きるだろうし、幸福な晩年を迎えることが可能だと感じる。なぜなら同じように病を持ち、愛や歌に真摯であるが、彼女にはピアフにはなかった自制心を感じるからだ。

比べて、自制を知らなかったピアフの晩年は余りにも悲壮で凄絶だ。最晩年、ピアフは体調不良による度重なる公演中止で借金だらけになりながらも、『Non, je ne regrette Rien (水に流して)』という曲に出会って再起を決める。

最期の公演のステージを前に、聖テレーズに祈りを捧げ、十字架のネックレスがなければ歌えないと喚き散らすピアフの姿は悲壮だ。それでも遂に舞台に向かって行くその姿は圧巻であり、いかに年老いた姿であろうと、どんな時代のピアフよりも神々しい。そして映画最後に流れる『水に流して』の歌詞のなんと心に響くこと!

「いいえ、私は何にも後悔しない。人が私にした良いことも悪いことも、みんな私にとって同じこと」とはじまるこの曲は、人生後半を生きる私たち世代の心に突き刺さる。