社会の底辺に属する人々に囲まれて育ったピアフ

メークアップの力にも驚かされるが、20歳のやんちゃな不良娘と、リウマチや薬物の乱用により40代後半で老婆のようになったピアフは、同一人物が演じたとはとても思えない。コティヤールは翌2008年のアカデミー賞最優秀主演女優賞に輝き、スター女優となったが、納得だ。

歌の部分はピアフの録音だが、会話部分は彼女の肉声だろう。晩年のピアフのだみ声、老婆そのものの声をどう出したのか。特に印象的なのが、絶頂期のピアフの下品な言動だ。高級レストランに取りまきを集め、コンサートの成功を祝うシーンで、「贈り物が欲しい」と店にシャンパンをねだる様は、痛々しいほどに醜い。

しかしそれも、ピアフの育ちを知れば許容してしまう。貧しい夫婦の元に生まれたピアフは、路上の歌手だった母にも祖母にもネグレクトされ、父方の祖母が経営する売春宿に預けられる。社会の底辺に属する人々に囲まれて育ち、ある日、大道芸人の父に連れ去られるようにして巡業の旅に出て、路上で歌ううようになる。

正当な教育を受けることもなく育ち、10代後半では既に路上での売り上げを大人にピンハネされながら生活。また、16歳で若すぎる出産を経験するが、子どもは2歳で夭折した。

しかしピアフは20歳の時、ジェラール・ドパルデュー演じる名門クラブのオーナー、ルイ・ルプレに見いだされ、スター街道を歩み始める。しかし幸運は、ルイが殺されるという事件でストップ。そこから這い上がるために作曲家レイモン(マルク・バルべ)の猛レッスンを受けて劇場デビュー。ジャン・コクトーにオリジナルの戯曲も贈られた。