ひりひりするほどに心を揺さぶる
エディット・ピアフは、持ち前の才能と「愛される力」によって、社会の最下層からありえない速度で這い上がったのである。「不幸な生い立ち」が、「不可思議なほどの純粋な魂」と共にエディットの肉体の中に同居した。そのことが恐らく、唯一無二の魅力を生み出したのだろう。
多くの幸運が彼女に成功の機会を与え、彼女も多くの男性を愛し、イヴ・モンタン、シャルル・アズナブール、ジョルジュ・ムスタキなどを世に送り出す手伝いをしている。
リウマチを患い、痛み止めの薬物で体をぼろぼろにし、すっかり薄くなった髪や震える手、興奮しやすい精神、丸く固まってしまった背中を引きずるようにして、歌うピアフ。コティヤール演じるピアフの姿はひりひりするほどに私たちの心を揺さぶる。コティヤールの演技をここまで引き出した監督、オリヴィエ・ダアンの手腕も相当なものだ。
さて、ピアフの人生最愛の恋人といえばプロボクサーのマルセル(ジャン=ピエール・マルタンス)だろう。既に既婚者であったマルセルに離婚は望まないと決めて愛する姿は、愚かしくも清らかで、神聖なほどに純粋だ。
飛行機事故でマルセルを失ったと知り、自宅を走り回って彼の名を呼び続けるシーンは何度見ても泣いてしまう。そしてこのシーンに流れるのが、『愛の讃歌』なのである。
「もし空が落ちてきても、大地がひっくり返っても構わない。あなたが愛してくれるなら…あなたが望むなら金髪にも染める、月も掴むわ、盗みもするわ、友達も、国も捨ててみせます」そう歌うフランス語の原詩を、無心で是非一度読んでほしい。