さて歯医者である。神経は抜いた。麻酔をしていたので治療中は痛くなかったが、麻酔が切れたその夜は、悶絶した。

でもここを乗り越えれば痛みからは解放される。そう思ったにもかかわらず、次の診療日、再び「キーーーーーーーン」という不気味な音のする細いドリルを歯の奥深くに突っ込まれた。治療は完了していなかったのだ。

「痛かったら、手を上げてくださいね」

先生から明るく声をかけられる。ということは、痛い可能性があるということか。

「キーーーーーーーン」という音を聞きながら、私は身構える。

戦地で怪我をして麻酔なしで手術をした人のことを思え。難産に苦しんでいるお母さんの気持になってみろ。私よりはるかに痛い思いをしている人は、世の中にごまんといるのだ! 自分を𠮟りつけてみる。

でもやっぱり、痛いものは痛い。事前通告があるなしにかかわらず。


最新刊『話す力 心をつかむ44のヒント』が好評発売中

シリーズ累計230万部突破!

阿川佐和子さんの「~の力」シリーズ最新刊は、『話す力』です。

「週刊文春」の看板連載対談「阿川佐和子のこの人に会いたい」が連載30周年を迎えた阿川佐和子さん。

担当者曰く「阿川さんは、実は『聞く力』より『話す力』がすごいんです」。そんな阿川さんが、会話の妙や楽しみ方を明かします。

初対面の相手との会話から、認知症の親の介護や家庭円満の秘訣、会議や会食まで。阿川さんが披露するとっておきのエピソードとコミュニケーション術が満載の1冊です。


人気連載エッセイの書籍化『ないものねだるな』発売中!

コロナ禍で激変した生活、母亡き後の実家の片づけ、忍び寄る老化現象…なんのこれしき!奮闘の日々。読むと気持ちが楽になる、アガワ流「あるもので乗り越える」人生のコツ。