レースを前に笑顔の早岐伸子さん。SSPに参加し始めて以来、半身麻痺のリハビリにも熱が入る

駆け寄る夫とハイタッチ

午前10時、1回目の全員走行が始まる。1人のライダーに3、4人のスタッフがつき、乗車をアシスト。車体の前と後ろについてバランスが崩れないようにスタート位置へ誘導し、徐々に手を放していく。

走り出したバイクを不安げに見守っていたのだが、一度スピードに乗るとそんな心配は消し飛んだ。どのバイクも翼が生えたように、のびのびとコースを周回する。

1回目の走行を終えた女性に話を聞いた。早岐(はいき)伸子さん、53歳。彼女は7年前に脳出血で右半身麻痺になった。

「夫婦でバイク好きで、以前は2人でよくツーリングしていたんです。恢復後のリハビリは、生活に精一杯で身が入らなくて。でも3年前、拓磨さんのイベントでの走行を見て、自分もやってみたいと言ったら、夫がここを探してきてくれたんです」

早岐さんの夫は、この日もスタッフとして妻の乗り降りを手伝っていた。早岐さんは語る。

「最初に見学に来た時、全盲の方が走るのを見て衝撃を受けました。インカムで指示があるとはいえ、どれだけ怖いか。それでも走りたいという意欲と、それを実現する姿を見て、諦めるのはまだ早いと思いました」

目標ができるとリハビリにも熱が入った。何度か初心者向けの練習会に参加し、去年からコースに出られるようになったという。走行後、駆け寄ってきた夫と、バイクにまたがったままハイタッチを交わす姿に、見ているこちらも胸が熱くなった。