「子どもたちと接触しないでくれ」

夫と婚家から出された条件は、娘たちを置いていくこと。大事に育ててきたわが子との別れは、母親としてはつらい決断だ。しかし婚家からの酷い仕打ちにひたすら耐えながら、夫とは仮面夫婦。もう限界だった。

わずかな貯金を持って家を出た西村さんは、アパートを借りて働き始める。娘たちは時折、西村さんを訪ねてきてくれたが、あるときそのことが元夫に知られ、「子どもたちと接触しないでくれ。遠くへ引っ越してほしい」と言われてしまう。

泣く泣く引っ越しをし、転居先で改めて仕事も探した。離れて暮らす娘たちにせめてお金を送りたいと生活を切り詰め、2人の大学の学費を負担する。新しい職場で地道に続けた努力が実り、会社の役員に就任するまでになった西村さん。そんななかで出会ったのが今のパートナーだ。

「彼もバツイチ。よくケンカもします。でもケンカっていいですよね。素の自分が出せるから」

元夫は10年前に亡くなった。最近、結婚した娘たちが暮らす街に引っ越した西村さんは言う。

「母としていろいろなことを教えなければいけない時期に家を出てしまったので、負い目がずっとありました。でも、あのまま素の自分を出せない場所にいたら、娘たちとの関係もぎくしゃくしてしまっていたかもしれません。今は孫の面倒をみて、少しでも娘たちの手助けができたらいいなと思っています」

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西村さんの笑顔を見ていると、苦労を経たのちの平穏がある。「いい主婦であらねば」という呪縛にとらわれていた日々。苦しみ抜いて地獄を見て、それを脱出した先には光明が差していた。