「住みはじめた頃は子育て世帯がたくさんいましたが、いまではすっかり高齢者だらけ」(撮影:藤澤靖子)
手頃な価格に適度な広さ。周辺は緑が豊かで、地域猫がやってくる――。そんな団地に40年近く暮らしているのが、漫画家の齋藤なずなさんです。『ぼっち死の館』は、団地暮らしの日常をもとに描かれたもの。実際の生活や、周囲の方との関係性について、お話を伺いました(構成=篠藤ゆり 撮影=藤澤靖子)

みんな明るくお迎えを待っている

団地を舞台にした漫画『ぼっち死の館』の反響がけっこう大きくて、びっくりしています。私は40歳で漫画家としてデビューしたのですが、76歳で代表作ができるとは(笑)。どこまでも遅咲きですね。

『ぼっち死の館』って、一瞬ドキッとするタイトルですね、とよく言われます。でも、この作品は私の身の回りで起こっている現実をもとに描きました。

私が住んでいるのは「多摩ニュータウン」といって、東京の西のほうの街にある団地。住宅不足が起こっていた、昭和のベビーブームの頃に建てられたところです。

都心から引っ越した当時は、夜は真っ暗だし、なんてところだろうと思ったのだけれど、住めば都。ここに住んでもう40年近く、緑も多いし、けっこう気に入っています。

住みはじめた頃は子育て世帯がたくさんいましたが、いまではすっかり高齢者だらけ。駅から団地へと走るバスに乗っていると、年齢層の移り変わりがよくわかります。

ご近所さんと「あの人、最近あまり姿を見ないねぇ」などと話していると、ひとりで亡くなっていたとか、病院に運ばれたとか、しょっちゅうよ。みんな慣れているのか、とくに驚かないし、それほど深刻にもなりません。

外からサイレンの音が聞こえてくると、ほかの棟の友人から「救急車がどこに停まったのか、下を覗いてみてちょうだい」と電話がかかってきたりして、みんな興味津々。「次は私かねぇ」などと、みなさん明るくお迎えを待っています。(笑)

ご近所さんとの井戸端会議では、「クリスマスもひとりだからクリぼっち」や「ぼっち正月」なんて言葉がよく出てくるので、『ぼっち死の館』というタイトルを思いつきました。