宇能 しかし僕の場合、意外とポルノっぽくならなくてね。川上宗薫(そうくん)と富島健夫(とみしまたけお)で「官能小説御三家」なんて呼ばれたものだけれど、僕以外の2人は担当編集者が何度も警察に呼ばれているんですよ。僕だけ何も言われなかったのは、体の部位や行為の名称を具体的に描写しなかったからだと思います。そこには自分なりの美意識がありました。書かずに読者に想像させるのは得意でしたよ。
近藤 月に原稿用紙1000枚以上お書きになった時期もあったそうですね。
宇能 いやあ、おおいに書いて、おおいに遊びました。
近藤 先生の作品では女性が明るくて前向きに性を楽しんでいるのが印象的でした。だから女の私が読んでも嫌な感じがしないんです。逆に男性は、へろへろしてちょっと情けない。
宇能 だって現実が、その通りですから。(笑)
近藤 フジテレビのアナウンサーになった当時、取材などで「好きな作家は」と聞かれるたびに、先生のお名前を出していたのです。ところが失礼なことに、「ほかの人はいませんか」と困惑されたり、スポーツ新聞の連載を見せながら「だってこの人でしょう」とからかわれたり。
宇能 それは申し訳ない。(笑)
宇能鴻一郎さん、伝説の食エッセイが復刊!
『味な旅 舌の旅 新版』中公文庫 定価946円(税込)
小樽から奄美まで、美味珍味を堪能しつつ列島を縦断。艶筆躍る美食紀行
*近藤さんとの対談の別バージョンも収録