渡世人は一宿一飯の恩義には義理堅い。出入りがあれば加勢する。朗読したり学生相手に講義したりもする。一所懸命する。しかし今回の旅で気がついたのは、寄る年波。
長く車に乗っていて、さあ降りようというときに、足がガクガクして降りられなかったのだ。降りても転びそうになってあわてて足をふんばった。
帰りの機内は、あたしはいつもどおりの窓際の席。いつも隣の人がトイレに立つとき、すかさず自分も立つのだが、今回の隣とその隣は若い男たちで、彼らは一度もトイレに立たなかった。どういう膀胱しとんのじゃと思いつつ、ついに二人とも起きてるときを見はからって声をかけて立ってもらった。そのときも、何キロも山道をくだってきたときのように膝がガクガクした。
熊本に帰りついたら、梅雨のまっさかり、青空も星空もなく、湿気と犬のニオイはものすごく(猫たちのニオイは平気)、あたしは熱が出て動けなくなった。コロナの検査をしたが、結果は陰性だった。
数日後(つまり帰国一週間後)には、NHKラジオ『飛ぶ教室』の出演で上京する予定だった。「調子悪いから、ねこちゃんちに泊まらずにホテルに泊まるね」などと親友・枝元に言っていたのだ。「そうなの」と枝元も止めなかった。でも、結局ぜんぶキャンセルした。『飛ぶ教室』はオンラインで出ることにした。寄る年波に時差ボケもある。東方向の時差ボケは西方向よりずっとつらい。
それにしても股旅の渡世人たち、昔は年老いたらどうしたんだろう。定住生活ができないから渡世人やってたわけで、身体が動かなくなったからといって今さら定住生活もできないだろうしなあ、などと考えながら、他人ごとじゃなかった。あたしは、ズンバもできずにぐだぐだしていた。