高齢者向け医学の先駆け

和田:私自身、先ほど申し上げたような人生観に変わったのは、浴風会(よくふうかい)病院という高齢者専門の病院が杉並区にあって、そこで働いた経験があったからです。

もともとは、関東大震災の際に家族を亡くし、介護など身の回りの世話をする人がいなくなってしまったお年寄りのための救護院として、皇后陛下(貞明<ていめい>皇后)の御下賜金をもとに作られた、日本初の公的な養老院が始まりでした。

『60代から女は好き勝手くらいがちょうどいい』(著:中尾ミエ、和田秀樹/宝島社)

稲田龍吉という旧東京帝国大学の教授が、そういう施設を作るならば、高齢者向けの医学・医療を日本にも確立しようと附属の診療所を設置しました。

当時の日本人の平均寿命は44歳くらいとされていますし、長生きできる人もそんなに多くはありませんでした。にもかかわらず、世界的に見ても老年医学がほとんどなかった時代に、あえてそうした施設を作ろうとした、稲田先生という人物の慧眼(けいがん)には、本当に驚きます。