ドラマの息絶えるシーンのように倒れ込んだ
回収してもらう朝、私は早起きをしたが、背中から脇腹にかけて激痛がした。突き上げるような痛みで、朝食を食べるどころではなく、着がえるのがやっとだった。私は尿路結石だと思った。人の話は聞いておくもので、友人二人が尿路結石の体験者で、痛みを話していたのにそっくりだったからだ。
本来ならすぐに救急車を呼ぶのだが、本棚3つを外に出さなくてはならない。どうしても持って行って欲しかった。
私は一番大きな本棚を満身の力で引きずり、玄関まで運んだ。すると吐き気がしてトイレに駆け込んで吐いた。友人たちは吐いたとは言わなかった。おかしいと思ったが、再び本棚を引きずり、ドアを開けて、外に出した。
次の本棚を出そうとした時、腰も激痛になり、床に倒れてのたうち回った。しかし、気を取り直して本棚を外に出した。3つめを運びだす時には、この世にこんな痛みがあるかというような痛みだった。それから、紙袋に下着とタオルとパジャマを入れた。入院となった時のためだ。
やっと固定電話から救急車を呼ぶことができた。
紙袋と保険証とお薬手帳を入れているバッグを持ち、吐いても良いようにビニール袋を手にして玄関の外にうずくまった。痛みで背中を伸ばすことができないのだ。
ところが、家の中で電話が鳴っている。腰をかがめたままドアを開け、電話にでると、「救急車は必要ですか?ご家族の車に乗るとか、タクシーはだめですか?」と聞いてきた。私はテレビのニュースで、救急車を呼ぶ人が多く、救急車が足りないことを知っていた。
私は「タクシーは無理。家族はいなくて私は一人です」と言ったとたんに、痛みで受話器を落としてしまい、その場に横に倒れた。廊下に落ちた受話器から「もしもし、もしもし、どうしましたか?」と声がして、ドラマで見た犯人に刺された人が警察に連絡しようとして息絶えるシーンを思い出した。私は外に出て、またうずくまった。やがて、救急車が来て、「あっ、いたいた」と救急隊員の声がした。