中園 向田邦子さんは、引っ越しの際、自分の脚本は全部捨てていたそうです。放送は流れて消えるものだからって。あとでみんなは嘆いたらしいけど、そういう人の作品が、後世に残るのかもね。狭い家なのに、デビュー作から全部台本とってある私なんて……。

清水 向田さん、お好きだったんですよね。

中園 本当に憧れていたから、よく向田さんの夢を見ていた時期があって。ある時、盛岡のボーイフレンドに会いに行った帰りに新幹線で寝ていたら、突然、新幹線ががたっと止まって目が覚めたの。

その時、ちょうど向田さんと旅している夢を見ていて、向田さんも私も鞄を持って、一緒に雲の話をしてるんですよ。それがすごく嬉しくてね。家に着いたら、向田さんが亡くなったというニュースが入ってきた。ひょっとしたら、新幹線が止まったあの時だったんじゃないかって、今も思ってる。

清水・林 えー。

 あなたに、向田さんが乗りうつったのかもしれないね。

中園 いえいえ、あの方は51歳で亡くなって、私はもうその年齢をはるかに超えてしまったのに、まだ何も追いつけてないから。

 時代が違うもの。テレビにとって苦しい時代に、これだけのヒット作を飛ばしてるじゃない。

清水 私もそう思う。みんなで試行錯誤してあがいて、もうこれ以上がんばっても視聴率は上がらないものと思っている時に、中園さんの存在は大きいと思う。それにしても、中園さんは霊感がないって言いながら、十分ありそうなエピソードだね。

〈後編につづく


清水ミチコさんの好評連載「三人寄れば無礼講」書籍化!

2人×18回、“今、会いたい人”を招いて繰り広げられる、ざっくばらんで愉快な鼎談。

・第1回:南伸坊 / YOU
・第2回:三谷幸喜 / 大竹しのぶ
・第3回:林のり子 / 吉本ばなな
・第4回:養老孟司 / 甲野善紀
・第5回:野沢直子 / 藤井隆
・第6回:蛭子能収 / 五月女ケイ子
・第7回:井上陽水 / 山下洋輔

など