「まあ、このご時世じゃ、いずこもいっしょだ。テキヤなんぞ、もう出る幕がねえ」
「あ……」
 大木が背筋を伸ばした。「申し訳ありません。長年お世話になっていながら……」
 多嘉原会長が両掌を大木に向けて言った。
「いや、別に神主さんを責めているわけじゃねえんですよ。今はそういう時代なんだと、諦めておりますから……」
「高森さん……」
 阿岐本が呼びかけると、高森は恐縮して言った。
「親分。どうぞ、小僧と呼んでください」
「あんただって親分だ。小僧よばわりはできねえよ」
「じゃあ、浩太と呼び捨てにしてください」
「身内じゃねえんで、それもできねえな。『花丈の』でどうだい」
「恐縮です」
「なあ、花丈の。谷津さんの件、急いだほうがいいな」
「ヤツ……?」
「中目黒署のマル暴刑事だ」
「あ、明日にでも署にうかがって話をさせていただきます」
「明日は日曜だ。刑事だって休みだろうよ」
「じゃあ、月曜日に……。中国マフィアを捕まえるためなら、全面協力します」
 それから、阿岐本は日村に言った。
「甘糟さんが、関係者の連絡先を訊きにこられるはずだ。おめえがまとめておけよ」
「はい。すぐにお教えできます」
 阿岐本は高森に視線を戻した。
「中国マフィアに追い詰められていたとはいえ、大木さんや原磯さんに脅しをかけたのはまずいなあ」
「申し訳ありません。自分ら、そういうやり方しか知りませんので……」